難民が避難民の語源

2025年06月05日
「Refugee」という英語は、フランス語の 「réfugier」(避難する、保護する)に由来しています。これは動詞の過去分詞形でもあり、英語に直訳するなら「the sheltered(避難された人)」や「the protected(保護された人)」といった意味になります。つまり、語源の段階ですでに、「refugee」という言葉には受動的で従属的な立場が暗示されているのです。英語の「refugee」は、このフランス語の借用語です。
それでは、日本語の「難民」という訳語についても、その意味や印象についても検討してみましょう。REIでは、「難民」という言葉が使われる際の文脈に着目し、あえて「避難民」という表現を選んでいます。本ブログでは、「難民」と「避難民」という言葉の持つニュアンスの違いについて詳しく説明し、人道支援の新しい時代において、「難民」とは何を意味するのか、その定義を改めて考え直す機会にしたいと思います。
「難民」は、「難しい」と「民(人々)」を合わせた熟語です。この「難しい」には二重の意味が含まれています。一つは、難民が置かれている外的状況、つまり、戦争や紛争、災害といった困難を表す意味です。もう一つは、難民そのものが「扱いにくい」あるいは「問題を引き起こす存在」であるかのような含意です。この二重の意味が、「難民」という存在を、彼らを取り巻く困難――すなわち故郷を追われる原因となった戦争や紛争など――と同一視させ、あたかも難民自身が「問題」や「困難」そのものであるかのように捉えられてしまう要因となっているのです。
この点において、英語も無罪であるとは言えません。一般的なメディアの描写において、難民はしばしば、「crisis(危機)」「emergency(緊急事態)」「security threat(安全保障上の脅威)」といった語彙で語られます。
つまり、日本語の「難民」という言葉は、難民を常に「問題視」し、彼らから力を奪おうとする、超文化的な「上から目線」の姿勢を、よりあからさまに示しているにすぎないのです。
それでは、難民の尊厳を損なうことなく、彼らが直面している困難を伝えるには、どのような言葉を使えばよいのでしょうか?
REIでは、「難民」に代わる言葉として「避難民」を使用しています。「避難民」は、直訳すれば「困難から避難した人々」という意味になり、彼らが戦争や災害から逃れようとしていることを明確に示しています。重要なのは、「避難民」には「問題のある人々」といった否定的な含意が含まれていない点です。
さらに、「避難民」という言葉は、日本の文化や日常生活とも親和性があります。たとえば、災害大国である日本では、防災訓練や避難訓練が日常的に行われており、「避難」という行為そのものが多くの人にとって身近な経験です。REIでは、この「避難」という共通体験こそが、日本の人々と支援対象である難民との間に共感を生み出す土台になると考えています。最後に、こうした訳語の再考を通じて見えてくるのは、REIの理念でもある「当事者の視点から世界を見る」という姿勢です。「難民」という言葉が、しばしば政府や受け入れ国の立場から「厄介な存在」として難民を表現しているのに対し、「避難民」という言葉は、難民の視点に立った、より人間的で尊厳ある表現であると私たちは考えています。だからこそREIでは、「避難民」という新しい言葉を積極的に提案し、それによって表現される価値観や視点を共有していきたいと考えています。